ブラジルの朝は、サッカーとコーヒーの香りとともに

「いい豆ってのはな、手に取った瞬間にわかるもんさ。」

農園主のオメロは、そう言ってカップを傾けた。彼の前には、ファゼンダ・レクレイオで収穫されたばかりのイエローブルボンが湯気を立てている。

「で?」 向かいのディオゴが尋ねる。「今年の出来は?」

「シルキーだ。まるでワインみたいなコクがある。」

ディオゴは頷きながらカップを口に運ぶ。彼はこの農園の管理を任されているが、父親であるオメロと飲むコーヒーは、いつも特別な味がした。

南ミナスの丘陵地帯に広がるレクレイオ農園は、コーヒーとともに生きる場所だ。

広大な敷地には68の住宅が並び、サッカーフィールドや教会、コンピュータールームまで揃っている。労働者たちの子どもは学校が終わるとサッカーをし、日が暮れるころには、家からコーヒーの香りが立ちのぼる。

「昔は、もっと適当だったんだ。」 オメロがぽつりと漏らす。「豆を均一に乾燥させるなんて考えもしなかった。でもな——」

「Cup of Excellenceか。」

ディオゴの言葉に、オメロは笑った。ブラジルがコーヒー大国になったのは、決して偶然じゃない。20世紀末、世界の相場が低迷し、ブラジルのコーヒーは“安くて大量に作れるだけ”の代物になりかけた。しかし、そこからの巻き返しがすごかった。

「機械化だけじゃ、いいコーヒーは作れない。」

品質に見合う対価を求める農園主たちは、グルメコーヒーコンペティションを開いた。それが後のCup of Excellenceにつながり、スペシャルティコーヒーの時代を築いたのだ。

「結局な、コーヒーは“どれだけ手間をかけるか”って話なんだよ。」

オメロはそう言いながら、ゆっくりとカップを置く。

シトラスの爽やかさ、赤ワインのような芳醇さ、そしてシルキーな口当たり。

レクレイオのイエローブルボンは、ただのコーヒーじゃない。農園主の誇りと、ブラジルの歴史、そして労働者たちの暮らしが詰まった一杯なのだ。

ディオゴは最後の一口を飲み干し、カップを置いた。

「さあ、今年も収穫が始まるな。」

オメロは微笑む。「美味いコーヒーを作るのに、終わりはないさ。」