コスタリカの朝、コーヒーの香りとともに
ホスエ・ボニージャ・ソリスは、その日もいつものように早起きした。1950メートルの標高にあるラ ロマ農園では、朝日が太平洋の向こうからゆっくりと昇り、山々をオレンジ色に染める。空気はひんやりとしているが、どこか心地よい。その瞬間、ホスエは胸いっぱいに深呼吸をし、ふっと笑う。
「さて、今日もコーヒーを作るとするか。」
そう言って、ホスエは手にしたカップから立ち上る蒸気を眺めた。それはまるで、この農園の歴史そのもののようだった。
マイクロミル革命とコーヒー職人の誇り
コスタリカがスペシャルティコーヒーの世界をリードするようになったのは、2000年代初頭のこと。小規模な農園が、栽培から乾燥まで一貫して管理する「マイクロミル革命」が起こったのだ。それまでのコーヒーは、大規模な業者が買い取って一括して処理するのが普通だった。しかし、ホスエの父親は言った。
「俺たちのコーヒーは、俺たち自身で最後まで面倒をみるべきだ。」
こうして、ホスエの家族は「ドンマヨ マイクロミル」を立ち上げた。名前の由来は、祖父の名「ドン・マヨール」から取ったものだ。「小さな工場でも、魂は大きく」という意味が込められている。
「最初は大変だったよ。」ホスエは苦笑する。「品種ごとの違い、発酵の時間、乾燥の方法、すべてを試行錯誤して学ばなきゃならなかったからね。」
農園の物語と風光明媚な景色
ホスエがラ ロマ農園を受け継いだのは、20代半ばの頃だった。父の背中を見て育ち、気づけば自分もコーヒーの木と対話するようになっていた。
「この土地のコーヒーは特別なんだよ。」
彼はそう言って、カトゥーラの木を撫でた。標高1950メートル、昼夜の寒暖差、ミネラル豊富な火山性土壌、そして太平洋からの風がもたらす朝露。このすべてが、コーヒーの風味を決定づけるのだ。
コスタリカのタラス地区は、コーヒー栽培に適した土地として知られている。ホスエの農園は特に高地にあるため、コーヒーの実がゆっくりと熟し、甘みが凝縮される。
「この景色を見てくれよ。」
農園の頂上から見下ろすと、緑の丘が幾重にも広がり、遥か彼方に海のきらめきが見える。ここはまさに「ベラ・ビスタ(風光明媚)」だ。
イエローハニーと家族のこだわり
ホスエの農園では、「イエローハニー」という精製方法を採用している。これは、果肉を一部残したまま乾燥させるプロセスで、コーヒーに豊かな甘みをもたらす。
「なぜイエローハニーなんだ?」
そう尋ねると、ホスエは笑って言った。
「父さんがね、蜂蜜のような甘さのコーヒーを作りたかったんだよ。」
この農園では、家族全員がコーヒー作りに関わっている。施肥のタイミング、収穫のタイミング、すべてが計算され尽くしている。それでも、彼らは決して「効率」だけを追い求めない。
「うちのコーヒーは、機械じゃなくて人の手で選ばれるんだ。完熟した実だけを、一粒ずつね。」
収穫の時期になると、農園はまるでお祭りのような賑わいを見せる。赤く熟した実を摘む手、籠いっぱいに詰め込まれる果実、漂う甘い香り。そして、収穫の夜には家族全員で乾杯するのが恒例だ。
「俺たちが飲むのはワインじゃなくて、もちろんコーヒーだけどな。」
カップの中の物語
ホスエがカップを口に運ぶと、ふわりとオレンジやライムのような爽やかな香りが広がる。そして、スムースな口当たりの中に、チョコレートのようなコクと、バターのような滑らかさが感じられる。
「ほら、蜂蜜の甘みが残るだろ?」
彼はそう言って、コーヒーを一口飲む。
「これが、俺たちの作るコーヒーの味さ。」
彼らの努力と誇りが、一杯のコーヒーに込められている。それを知ったとき、あなたが手にするカップの中のコーヒーは、ただの飲み物ではなくなるだろう。
コスタリカの朝のように、どこまでも澄んだ味わいを感じながら――。